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■ 旅、それは・・・
【序】今から約2年前の冬、筆者は生まれて初めて一人旅というものを経験しました。現在は実に低刺激なぐうたら生活を送っている私ですが、気力に満ち溢れていた若かりし頃を思い出し、あの思い出深き珍道中をここに綴ってみたいと思います。どうぞお暇な方はお付き合い下さい。
そもそも何故に一人孤独な旅をしようと思い立ったかというと、普段から躁鬱気質傾向の私は当時恐ろしいほどのローテンションな日々に悩まされていたのである。普通なら速やかにこの憂き世に別れを告げるところだが、飛び降り自殺一つするにもビル選び等の下準備というものが必須。それに私は弔問客が思わず吹き出すような超面白死因によりあの世へ旅立ち、且つ計算され尽くした爆笑顔芸遺影を葬儀時に知人に見せたいという壮大な願望がある為、そこらの凡人達のように迂闊に死んだりは出来ない。そこで私は、どこか知らない土地でやれるだけの悪行を行い憂さ晴らしをするという素晴らしい計画を思いつき、突如旅に出ようと決心したのだった。
そして雪深き2月。観光シーズン外れまくりの時節に、私は一人遠く山口県を目指しフラフラと住み慣れた我が家をあとにしたのであった。目指す土地には雪が無いはずである為、北国根性丸出しのブーツなどは敢えて履かず、履き慣れた夏靴で玄関前の雪を踏みしめる。一歩。ここから私の旅が始まるのだ。身が引き締まる思いでこれからの長い道程の無事を祈る。
が、バス停に着いたところで遠出の最強必須アイテム・愛しのおやつ達を買い忘れたことに気付き、即座に気が萎えた。早くも壁にぶつかる。これから空港まで約40分も列車に揺られなければならないというのに、おやつ無き列車の旅など4次元ポケットの無い某猫型ロボットのようなもの。今すぐ家にとって返し食べかけのビックリマ○チョコでも持ってこようかと涙ながらに考えるが、既にバスが到着。泣く泣く荷物を引きずりながらタラップを登る。薄曇りの冬空の下、カコの初めての一人旅は波乱含みの幕開けを迎えたのであった。
次回「一人で乗れるもん〜空港編〜」。乞うご期待。
■ 菓子なき旅
【前回までのあらすじ】
旅とティータイムの強い味方「ザ☆おやつマン」を忘れたままバスに乗り込んでしまった筆者。カコの運命やいかに?!
意気消沈状態のままバスから列車へと乗り換える。この際に「おやつが無ければ駅のキ○スクで買えばいいじゃねーか」と思う方々もいらっしゃるかもしれぬが、その時私の前にそびえ立っていたキオ○クは、オロ○ミンCゴールドまでしっかり扱っておりドリンク系の品揃えには意気込みを感じさせるわりに、おやつに関しては赤子も同然、とりあえず流行りの菓子を並べてみましたという実に稚拙な商売の仕方をしている店舗であった。何よりもあのおやつ界の大御所・子供のハートをがっちりキャッチして早十数年の、ジャイアントカプ○コの姿が見えない。日本国民のおやつ心を解さないこのような店に金を落としてやる筋合いは皆無!巫山戯るな!俺様をみくびるなよ!
怠惰なキオス○に蜂の一刺しをかました事に少々ではあるが満足した私は、列車内でおとなしく文庫本を読むことにした。通路を挟んで隣の席では出張中のサラリーマンらしき2人組がボリボリとじゃが○こを喰らっている。いい年こいてカッコ悪ィのぅ、と思いながら横目で彼らの姿を見ながらふと気付く。人目も憚らずじゃ○りこをモリモリ食している大の大人2人。そして一方、一人静かに文庫本を読む女。明らかに私の勝ちである。今、彼らと私の間には奴隷と女王、いやカメムシと神ほどのレベルの差が生じているに違いない。そうか、女の一人旅ってこういうものか!何てクールなんだ!いいぞ私!
そして約40分後、自己満足に浸りつつ私は空港に降り立った。おやつを食べない遠出もなかなか風情があって良いものですわね。オホホ。何故か歩く姿勢も心なしか優雅になる。さよなら今までの私!すごいぞ一人旅!出発後僅か小一時間で早くも一皮剥けた気分だ!意気揚々と空港内を闊歩する。と、私は知らず知らずのうちにお土産店が立ち並ぶ界隈に足を踏み入れていた。
おお!これは庶民の憧れの生物・ミスター蟹ではないか!ああー!イクラ!イクラだぁー!おやおや、ラベンダーチョコレート?何てこじゃれた食い物なんだろう!そう、所狭しとひしめきあう土産店の店先には目も眩むような魅惑の北海道グルメ隊が顔を揃えていたのである。
次回「エアポート食い倒れツアー」乞うご期待。
■ 食い倒れエアポート’00
店頭に並ぶ食べ物群を前に、自分のいでたちを冷静に分析してみると、これから南下する為着衣はやや薄着、手には大きめのバッグ。そして夏靴。こ・・・これは・・・!北国の冬を少々ナメてかかってきた本州からの旅行者そのものではないか!いける!これはいけるぞ!早速「東京からはるばるメール友達(男25)のところへ遊びに来た女子大生(21)」という偽りのプロフィールを作り上げ、大試食会を決行する。んまーい!カニうまーい!イクラもうまーい!あっコレもしかしてサーモン?これ好きなんだよネーワハハハハ・・・「いや〜寒いですね〜北海道は」等と取って付けたような会話を店の親父と交わしつつ、結局道産グルメを腹いっぱい食すことに成功。列車内で文庫本を読んだ際に剥けたはずの煩悩の一皮も再び我が皮膚にべったり密着し、「知性より一次的欲求(食欲)」という魔の方程式に追随してしまった己を悔やむも、そんなもの今更である。思えばこの旅の目的は、普段社会からはみ出すことを怖れ内気な地味地味人生を送ってきた自分を捨て(←この表現に異論のある方は筆者まで申し出て下さい)、出来うる限りの悪行を行い憂さ晴らしをすることだったではないか!いいんだこれで!この調子で突き進めカコ!
虚しき嘘により満たされた腹を抱え、搭乗ロビーへ向かう。いよいよこの生まれ育った北の大地から旅立つのだ。これからのめくるめく旅の道程に胸躍らせ、ロビーに足を踏み入れる。今、私は誰よりも自由だ!輝ける僕の未来に向かってテイク・オフ!と、顔を上げると私の視界は真っ黒であった。ぎゃあ!何だ?!おいおい俺はどこに向かってテイク・オフしちまったんだよ!ブラックホールにでも入ったか?さらば〜地球よ〜旅立〜つ船は〜・・・どうしよう沖田艦長!波動砲撃たなきゃ、波動砲・・・!
何とロビーの椅子は漆黒の衣に身を包んだ集団に占領され、その謎めいた人間達が発する体熱により、冬場にあるまじき蒸し暑い空気が周囲に漂っていたのであった。「沖田艦長!あれは何という星から来た生物でありますか?」「ウム、カコ隊員よ、あれは修学旅行星雲の住人だ。」黒衣の集団の正体は、修学旅行という日本古来の伝統に縛られた奴隷達であった。まさか・・・こいつらと同じ便てことはねーだろうな・・・。すると、アナウンスに従い搭乗準備を始める黒衣の集団。ええーーーー?!!!もしかして・・・??!!!
■ 黒に囲まれて
※筆者体調不良のため長期に渡り更新が滞りましたことを心よりお詫び申し上げます。
【前回までのあらすじ】
空港搭乗ロビーにて修学旅行生の集団に出くわしたカコ。さぁどうなる?!
黒衣の集団に唖然と立ちすくんだ瞬間から約20分後。私は黒衣の高校生集団の真ん中にいた。前も後ろも右側も見渡す限り全て修学旅行生。唯一の救いは左側が窓であることのみ。何と私の席は修学旅行生達が占めるテリトリーのど真ん中に配置されていたのであった。おい!A○Aよ!どういう了見で俺をこんな子供集団の渦中に放り込んだんだ?!しかも思いっきり男子席ゾーン。うざーい!うるさーい!オマエラ呑気にUNOなんかやってんじゃねーよ!!!せっかくの「女一人旅〜しっとり旅情編〜」を醸し出す予定が、これでは「男子高校生とGO!〜破廉恥お騒がせ旅情編〜」になってしまう・・・。うぅ・・・。
航空会社の卑劣な仕打ちに必死に耐えながら膝を抱えていると、ふと気になることが。私のすぐ右隣の席が空いている・・・。ここに一般の方が座ってくれれば多少の防御壁になるやもしれぬ。おお!神様!微かな希望に胸膨らませ、すがるような心持ちで右隣に神経を集中する。騒がしい中にコツコツと歩いてくる足音。来た!出来れば普通のサラリーマン!百歩譲って修学旅行引率の先生でもいいぞ!
「おー、オマエどこ行ってたんだよ」「便所便所」・・・ドカッ!!!「腹減ったぁ〜〜早く機内食食いてぇ〜」恐る恐る右隣を窺ってみる。視界の右端に映る学ラン。ああ・・・終わった・・・。しかも私の隣に座った男子生徒はクラス内でも一際騒がしい集団のヘッドらしく、前と喋り後ろと喋り通路を挟んで隣と喋り、とにかく始終喋りっぱなしの男であった。即座に心のシャッターを降ろし窓にへばり付く私。もうこうなったら自らの意識を大宇宙へと飛ばし、一人別の精神世界へ閉じこもるしかない・・・と思ったその時!私の右腕をポンと叩く何者かの手。恐る恐る振り返ると、目の前には満面の笑みをたたえた男子高校生の顔があった。「一人で旅行?何処行くの?」おい!私まで喋りに巻き込む気か!ほっといてくれよ!屈託無く微笑む彼の目が漆黒の闇に思えて逃げ出したくなる。助けて沖田艦長!この修学旅行星人は罪無き私を捕まえ、私との上っ面の会話を「旅先で出会った人との交流」として学生時代の思い出の一ページに勝手に加える気だ!
■ 出現!トーク魔人
【前回までのあらすじ】
見も知らぬ男子高校生が仕掛けたトークの檻に囚われたカコ。果たして無事に飛行機から降りることが出来るのか?!
「旅行?」「どこ行くの?友達のところとか?」「一人で行くの?」
私が明らかにやる気のない生返事を返しているにもかかわらず、右隣からは執拗に言葉の雨が襲ってくる。ダァー!うるさいんじゃオマエは!貴様の為に我が身を削り旅の思い出の1ページになる気など、俺にはさらさら無い!もはやこの鬼トーク魔人から逃れる術はただ一つ!黙殺あるのみ!何かと心細い一人旅のサポートアイテムとして事前に購入しておいたガイドブックを取り出し黙々と読み始める私。
するとトーク魔人は尚もくいさがり、ガイドブックを覗き込んでくる。「何読んでんの?ねぇねぇ」うぜぇー!オマエ大概の女子からゴミのように嫌われてるだろ、絶対!しかし次の瞬間奴は言った。「あっ、秋吉洞行くの?俺地元だよ!ワハハ」・・・あっ・・・!そうか!この便が修学旅行の帰路の一部ならば、この修学旅行の人々は私が目指す土地の地元民ではないか!ガイドブックに載っていない秘密の面白スポット情報を得る絶好のチャンスだ!
いちいちリアクションが煩いトーク魔人は、私が最も忌み嫌うタイプの人間であったが、ここは一つ賢く利用するのが大人の女のテクニックというものであろう。偽りの微笑みを浮かべ愛想良く奴のトークに乗ってみる。「地元でさ、何か面白いところとか知ってる?」すると奴は私のハートをガッチリキャッチするような、驚くべき答えを放ったのであった。「秋芳洞なら奥の方に行くとね、コウモリがいるんだよ!上の方飛んでんの。すげーじゃろ(←おそらく方言だろうと思われる)」
コッ・・・・コウモリ???!!!マジスゲー!冒険じゃん!インディ・ジョーンズみたい!見てぇ!コウモリ見てぇ!期待に目を輝かせる私にトーク魔人は更に色々教えてくれた。コウモリは天井の暗くて高いところにいるので大概の観光客は気付かずに通り過ぎてしまうこと、秋芳洞は地元民にとっては少し遠出のデート時にしか足を向けない場所なので、カップルが多く意外に居心地の悪い雰囲気の時もあること、等々。もはやガイドブックはバッグの片隅に押し込まれ、トーク魔人と共に会話に花を咲かせる私。まんまとコウモリ話の罠にかかってしまった。迂闊!どうするカコ?!次回乞うご期待!
■ 魔人との別れ
【前回までのあらすじ】
トーク魔人の仕掛けたコウモリ話に魅せられてしまったカコ。無事に旅を続けることが出来るのか?!
当初は煩く感じていたトーク魔人のキャラにも多少馴れ、私は飛行機内で楽しい時間を過ごした。話してみるとなかなか面白い奴ではないか。何よりの収穫は秋芳洞内に生息するコウモリ情報を手に入れたことである。闇に舞うサタンの使者達は洞窟内でいかなる悪事をはたらいているのか。今こうしている間にも奴らは罪無き観光客達を襲撃しているかもしれぬ。空港に着いたら即座に秋芳洞に向かおう。そしてコウモリを目撃!できればその邪悪なる姿を激写!そしてさらにできれば捕獲!手なずけて我が輩の下僕にしてやる!ワハハハハ!
大きな野望を胸に秘め不敵な笑みを浮かべる私。その間に飛行機は滑るように山口宇部空港へと舞い降り、邪悪なる闇の末裔達が跋扈する地へ私を誘っていくのであった。ここでトーク魔人ともお別れだ。腹を空かせていた魔人にささやかな礼として機内食のバターロールを進呈し、笑顔で別れを告げる。一期一会。これも旅の醍醐味だ。再び黒衣の学生集団の中へと戻っていく魔人の後ろ姿に、私はいつまでも手を振り続けていた・・・。(←多少筆者独自の演出がなされておりますので、ご了承下さい)
さて、これからは迅速且つ正確に秋芳洞へのルートを辿ることが要求される。時間はもうすぐ正午。夕方までに洞窟内に入り、闇の支配者コウモリ野郎の顔を拝まなくてはならない。とりあえず秋芳洞に一番近い街・小郡へ、そしてさらにバスで秋芳洞へと向かうのだ。残された時は少ない。急げカコ!
次回「地底より愛をこめて〜激突!カコvsコウモリ族〜」乞うご期待!
■ 穴へ帰ろう
突然だが、この一人旅連載をお読みになっている貴方、君は大きな疑問を抱いておるね?「何故山口県なのか?」と。あらかじめ申しておくが、私の友人・知人が山口に住んでいるわけではない。親戚も無し。特に山口県を愛しているわけでもなく、前世で山口県民だったわけでもない。
では何故に山口県なのか?!それは私が鍾乳洞をこよなく愛する人間だからである。つまり日本鍾乳洞界の王者・秋芳洞を一目見るためだけに遠く山口県へ旅立ったのだ。あっ!!!アンタ今オイラのことオタクだと思ったろ!あーーそうだよ、オタクで結構だ!オタク万歳!!!
思えば父に連れられて北海道・当麻鍾乳洞にて魅惑のアドベンチャー体験を味わってから早8年。南は沖縄・玉泉洞まで制覇したにもかかわらず、未だ王様・秋芳洞の顔を拝んでいないことは私にとって長年の屈辱であった。
鍾乳洞の面白さは多々あれど、敢えて一言でまとめるならば、まずは「冒険」の一言に尽きる。大半の鍾乳洞は穴全体が全て探検され尽くしているわけではなく、まだまだ未踏のミラクルワールドをその体内に抱えている。果たしてその深奥には何が潜んでいるのか?!巨大魚か?恐竜か?もしかして野人?金塊?はたまたDNAの神秘としか思えないほどの美少年が一人浮き世を離れ孤独な生活を送っているやもしれぬのだ。どうだ?興味が湧いてきただろう?こういう夢多き想像を楽しむことが出来ない奴は、己が既に汚れた大人に成り下がっていることを自覚すべきだぞ。かくして私は鍾乳洞の暗い足場を踏みしめる時、その深い闇に目を凝らす時、限りなきロマン(と欲望)を感じるのである。
それに加え精神衛生上的観点から考えても、穴の中に入っていくという行為は体内回帰、すなわち生まれ変わりの意味も兼ねており、人間にとっては精神の奥の奥でくすぶる本能を満たす素晴らしい癒しであると言えるのだ。日々の鬱憤に押し潰されイヤな上司を心の中で殺してみたりした経験のある方は、是非とも鍾乳洞に飛び込んでいただきたい。
冒険、そして癒し。これが地球が生み出した芸術的穴・鍾乳洞の醍醐味である。だから洞内に足を踏み入れる際には常に暗がりに目を凝らし、未知なる別れ穴や珍奇な生物がいないかどうかに神経を配り、慎重に歩を進めなくてはならない。そして洞から出た時には、外界の眩い光を思いきり吸い込むのである。
■ 地底より愛をこめて
秋芳洞内に潜入可能な時間帯は限られている。AM8:30〜PM4:30。その間に速やかに洞内に侵入し、コウモリ星人を捕獲しなければならない。現在時間PM4:00。現在地・秋芳洞バスセンター。リミットが迫っている。手際よく宿泊先に連絡を取り、一足先に荷物を宿へ輸送してもらう。任務遂行の為には身軽であることが絶対条件だ。小型カメラのみを携え敵地・秋芳洞へ接近する。途中土産店で虫取り網を発見。コウモリ星人の身柄確保に備えて思わず購入しそうになるも、一人虫取り網をヒラつかせ洞内をウロつく己の姿を想像し慌てて思いとどまる。大型の武器は人目を引く。やはり頼れるのは鍛え上げた我が手刀のみか・・・苦しい戦いになりそうだ。
深い緑の木々に囲まれた遊歩道を進み、いよいよ洞入り口に到着。恐る恐る足を踏み入れると、早くも驚愕の光景が目を射る。頭上には広大な石の空間が広がり、足下には地球の中心まで続きそうな地底湖が口を開けている。100人中99人が思わずその暗い水中へ身を投じてみたい衝動に駆られるであろう。その暗黒の水はいかなる生物の命を育んでいるのか。人面魚?巨大魚?もしかして巨大ロブスターとか?!おお!これぞアドベンチャー!これぞロマン!湖の周囲に張り巡らされた柵から身を乗り出し、黒く静かな湖面を魅入られたように凝視する私。
「あのぉー・・」ふと背後から遠慮がちな声。エッ?もしかしてオイラの行動おかしい?どうしよう!「早まっちゃダメですよ」とか同情たっぷりの台詞を吐かれたりしたら、恥ずかしいことこの上なしだ!万一不審人物として我が故郷・北の大地へ強制送還されたりしたら、コウモリ捕獲任務も台無しではないか!「ハイ?」と呑気な雰囲気を装い笑顔で振り返る。可愛らしい女性の姿。そしてさらに後ろに爽やかな好青年。女性が言う。「シャッター押してもらえませんか?」あ、なーんだぁ、そんなことか。冷静になって辺りを見回してみると、何とツアーの観光客達以外はカップルばかり!老若男女、デートから新婚旅行、老後を楽しむ熟年夫婦まで、無数のカップルが洞内にひしめいているではないか!
秋芳洞の総延長は10km、公開部分1km。この長い洞内をカップルと団体観光客の安全を確保しつつコウモリ星人と戦いながら進むわけだ。この任務は困難を極めるであろう。地底の死闘、いよいよ開戦!
次回「恋人達の憩い場〜シャッター攻撃の嵐〜」乞うご期待。
■ カメラ妨害〜激突!蝙蝠星人〜
満面の笑みを浮かべ寄り添う若き男女の姿をカメラ越しに覗きながら、私は考えていた。何故に世のカップル共はイベント時に何かと写真を撮りたがるのか。どうせ後々別れたら捨てるんだろ?!結婚したらしたで、うざったい配偶者の写真なんぞ物置の片隅で埃被ってせいぜい引っ越し時にしか顧みないだろうが?!これでもう3組目だ。勘弁してくれ!オマエラにはわからんだろうが、こんな薄暗い鍾乳洞の中では、そんなバカチョンカメラのフラッシュじゃ背景は写らねーんだよ!現像して見てみろや!漆黒の闇に佇んでる己の姿しか写ってないぞ!
そう、私は洞入り口から100mも進まない内に、見ず知らずのカップル達の為に何度となくシャッターを押してやるハメに陥っていたのである。2、3歩足を進める毎に「すいません、シャッター押してもらえませんか?」の嵐。これではコウモリ捕獲どころか、洞内をつぶさに観察し未知の生物等を発見するという通常任務の遂行もままならぬではないか!ぬぅ〜〜〜流石天下の秋芳洞、何事も一筋縄ではいかないわい・・・。
何とか「青天井」「百枚皿」「洞内富士」「千畳敷」等、個性的な名前が付けられた岩の奇観を楽しみつつ邪魔なバカップル共が通り過ぎるのを待ち、いよいよコウモリ星人の住処と思しきポイントに辿り着く。情報は飛行機内で男子高校生トーク魔人から入手済みだ。一際闇の濃い天井付近に目を凝らし、動く物体を探す。コウモリ星人の住居付近は観光用通路が極端に狭まっているので、立ち止まり上を見上げ続ける私を睨み付けながら迷惑顔で通り過ぎていく観光客達。そんなことは気にも留めずコウモリ発見に全霊を注ぐ私。
しかし視界に映るのは漆黒の闇のみ。私の熱視線は虚しく暗黒の岩肌へと吸い込まれ、いっこうにコウモリの姿を捕らえる気配は無い。任務失敗か・・・コウモリの奴め、私のオーラに恐れをなし早時退却をはかったな・・・?!落胆した眼差しで闇の彼方を見つめる私の姿に気付いたオバサン観光客が思わず声をかけてくる。「どうしたの?何かいるのかい?」もう任務失敗は明らかだ。一般人に情報を漏らしても害は無かろう。「コウモリがいるって聞いたんで」「へぇ!コウモリが?本当かねぇ」私と一緒に闇に目を凝らすオバサン。「でもいないみたいです」としょげかえる私。・・・と、その時!!!暗がりに微かな気配が!コウモリ星人か??!!
■ ロマンは希望の彼方に
【前回までのあらすじ】
秋芳洞内の暗がりを食い入るように見つめるカコとオバサン。闇のサタン・コウモリ星人はその姿を現すのか?!
目を細め、必死の思いで闇に神経を集中する。確かに見たのだ。漆黒の闇の中を一際邪悪な暗黒を秘めた影が横切るのを。「今何か動いたんじゃない?!」オバサンがやや興奮気味に叫ぶ。影を見失った辺りに目を凝らし、動く物がいないか確かめる。既にオバサンを完全無視し、全ての意識を闇に注ぐ私。だが付近の小岩の影が全て怪しく思えてしまい、コウモリ星人の姿を確保できない。ぬぅ〜コウモリ星人の奴、隠れ身の術か?!こしゃくなテを使いおって・・・!
その後10分間近くも闇を見つめ続け、洞内で営業している記念写真屋のオジサンまで巻き込んで大がかりな捜索を展開したが、コウモリ星人の姿をとらえることは出来なかった(オバサンは早い段階でさっさと捜索を諦め、ソバを食いに行った)。何という失態であろう。これでは「アマゾンの巨大ナマズを追う!」とか「ヒマラヤの雪男の正体は?!」とか銘打って結局何も見つからずに終わるテレビの特番と同レベルではないか・・・。
しかし見つけられなかったものは仕方がない。まだまだ私も修行が足りないということだ。頭を垂れてトボトボと宿に帰る。憔悴しきった私を心配してか、宿のおばちゃんは本来ならば食堂で食べねばならない夕食を部屋まで運んでくれ、コイン式のテレビを見放題にしてくれた。私はホカホカの白いご飯と共に悔しさを噛みしめながら決心した。落ち込んではいられない。旅はまだまだ続くのだ。明日は更なる冒険にチャレンジしよう。目的地は景清洞。秋芳洞の子分とも言える少々マイナーな洞である。宿からは少々遠いが冒険に苦労は付き物だ!頑張れカコ!
だが、この決心が後々とんでもない事態に繋がるとは、この時点では夢にも思っていない私であった。次回、カコがとんでもない窮地に陥る!「恐怖と戦慄!〜平家の罠・積年の恨み〜」乞うご期待!
■ 深奥への路パート1
コウモリ星人に完全敗北を喫した次の朝、またしても自室で見放題のテレビを前に温々と朝食をとりながら、私は考えていた。昨日の失敗を取り返すにはいかなるアドベンチャーに身を投じれば良いだろうか、と。
とりあえず景清洞にはチャレンジしてみよう、と思う。何故ならそこには、ライト付きヘルメットと懐中電灯を装備して足を踏み入れねばならない「洞窟探検コース」なる場所があるからだ。もしやコウモリ星人の一匹や二匹、あるいは前人未踏のデンジャラスゾーンで未知なる宇宙生物を発見できるやもしれぬ。このチャンスを逃すテは無い。しかしそれだけでは昨日の任務失敗をカバーするには不十分。何か、何か無いだろうか・・・。
しかし、こうして温い部屋で悶々と思考しているだけでは何も始まらない。宿のおばちゃんに部屋の鍵を預ける。「今日はどこ見てくるの?」とおばちゃん。「景清洞に行こうと思って」サラリと答える私。「あら、そう、気を付けてね。」思えばおばちゃんが吐いたこの言葉にもっと警戒すべきだったのだ。“キヲツケテネ”。後々私はこのフレーズを痛いほど噛みしめる羽目に陥ることになる。
おばちゃんの暖かい言葉に送り出されて足取りも少々軽くなり、景清洞へ向かう前に展望台へ登ってみることにする。秋芳洞の見所は地底だけではない。地上には広大なカルスト台地・秋吉台が広がり、石灰岩の柱や火星のクレーターのような窪みなどが迫力全開の素晴らしい景観を作り上げているのだ。展望台の上から雄大な景色を眺め、しばしの休息。と、その時、泣き叫ぶ子供の声が耳をつんざいた。「ヤダァー!あれ食べたい!あれ買ってぇーー!」何だ何だ?!子供の心をそんなにも狂わせる魅惑の食べ物とはいかなるシロモノなのだ?!
泣き声のする方へソロソロと近づいてみる。するとそこには北風にあおられヒラヒラと踊る一本のノボリ。ナニナニ?夏みかんソフトクリーム・・・???ナニィーーー?!このクソ寒い中、ソフトクリームを売っておるのか、この店は!!!しかも夏!夏みかん!バカじゃねーの?!さすが秋吉台、やることが常人の枠を外れている。しかも何気にちょっぴり食べてみたい衝動に駆られるから不思議なものだ。
結局私は、泣き叫んでいた子供と共に夏みかんソフトを購入し、アホ面下げてソフトクリームをほおばりながら景清洞へと向かうバスに乗り込んだのだった。
■ 深奥への路パート2
景清洞へと向かうバスは、先程展望台から眺めた秋吉台・カルスト台地のど真ん中を駆け抜けるルートをとる。車内には初老の夫婦と私、そして運ちゃんだけ。当然世間話に花が咲く。勿論運ちゃんの観光案内トーク付き。窓外に広がるカルスト台地の雄大な景色を楽しみながら、アイスクリームを食べ食べ、運ちゃんの解説に耳を傾ける。何という贅沢な時間だろう。「へぇ〜一人で旅行?!勇気あるねぇ」等とほめられ、もはや有頂天の私。
しかし幸せな時間はそう長くは続かない。それが神の作りし憂き世の方程式だ。私は気付いてしまった。眼前に広がるカルスト台地の所々に設置されている柵の存在に。「あのぉ、あれ何の柵ですか?」思えばここでこんな愚問を発しなければ良かったのだ。私はこの時ほど自分の無邪気さを悔いたことはない。だが一人っ子生活6年、蝶よ花よと甘やかされた幼少期に培われた忌まわしき天真爛漫さの片鱗は、この年齢になっても私の精神に深く溝を作る。ああ、神よ、何故私はあのような問いを発してしまったのでしょう・・・。などと嘆いても時既に遅し。私の屈託ない発言に運ちゃんが答える。「ああ、あれね。あの柵は・・・」それから運ちゃんが始めた話は身の毛もよだつ悲劇であった。
現在私を乗せてバスが走っているのはカルスト台地の上。この地の下には秋芳洞を始め数多くの鍾乳洞が無数の手足を這わせている。以前にお話ししたようにその大部分はまだまだ未踏で数多くの謎を秘めているアドベンチャーゾーンである。その上のカルスト台地に偶然穴が開いていれば・・・。当然その穴は地底の魔宮・鍾乳洞内へつながっていると考えられる。カルスト台地上をうかれ放題で散策している観光客が、「おい、写真とろうぜ!」等とはしゃいでファインダーを覗きながら「それじゃ全員入らないよ。もっと下がって下がって・・・」後ろにヒョイと下がったその瞬間、草に覆われ自然のカモフラージュを施された穴へ真っ逆さま・・・というわけだ。落ちた際に首の骨でも折って即死すればシメたものだが、ゴロゴロと穴へ落ち込んで転がっていった先は鍾乳洞の迷宮の中。未開の洞内にはレスキュー隊が突入できるはずもなく、真っ暗な地底を一人彷徨ったあげく餓死。・・・というケースが幾つかあったそうなのだ。今も尚このカルスト台地の下には彼らの屍がいつか発見されるその日を待ちわびている・・・。
■ 年月が奪いし物〜大人って何?〜
【前回までのあらすじ】
夏みかんソフトクリームを片手にうかれ放題のカコを乗せ、バスは景清洞へとひた走る。しかし運転手が話し始めた過去の惨劇に車内の空気は不吉に一転した・・・。
運転手により語られた生々しい事故。それは、更なる冒険に新たな希望を抱きつつあった私の心を無惨に萎えさせた。今このバスが走っている地面の下には無数の屍が苦痛の叫びを上げているのだ。幾千もの腐敗した手が台地から伸び出し、バスを闇深き鍾乳洞へ引き込もうとする光景が脳裏をよぎる。ぎゃあーーー!!!怖ぇーー!!!そもそも怪談話やホラー映画などというシロモノは、安全神話に溺れた現代人向けの恐怖刺激、単なるアドレナリン補給の一手段、数あるエンターテインメントの中の一角に過ぎぬ、と平気のへいざで楽しむことが出来る私だが、こういう生々しい話は嫌いなんだよ!!!バーカバーカ!折角の旅気分を台無しにしやがって!運賃払わねーぞ、こんにゃろう!うぅ・・・怖・・・。
だが、恐怖に震える私を尻目に、同乗の老夫婦は呑気なものである。不気味に広がる台地を見渡し「それにしてもいきなりスポッと落ちていなくなったらビックリするでしょうなぁ〜わはは」「そうねぇ〜」等と爽やか口調で語り合っている。歳月は人間を強くするが、同時に限りなく無感覚にしていくのだということを、悠々と景色を楽しむ彼らの姿から学んだ気がした。正直、少し切なかった。
そして30分後、すっかり口数の減った私を景清洞前で降ろし、老夫婦を乗せたバスは遠く山口市へと走っていった。その後ろ姿を見送りながら思う。私は年をとっても感受性を失うことだけはしまい、と。いつまでも少年の心を持ち続けよう。ロマンを追い求めよう。さあ、行く手には新たな冒険が待っている。目指すは景清洞だ!
・・・と振り向いた私の視界に入った光景は、観光客など誰一人として見あたらない漆黒の穴ぐらであった。えっ・・・どういうこと?秋芳洞の賑わいとは正反対、吹きすさぶ北風には微かな人間の気配すら混じっていない。何か・・・ヤバイ所に来ちまったか・・・?とりあえず入り口前の案内所で入洞券を購入する。無愛想な女が叩きつけるようにして私の掌に券をのせる。行く手には吸い込まれそうな闇を内包した景清洞。さっきの運ちゃんの話といい、いよいよ雲行きが怪しくなってきたぞ・・・次回カコ絶体絶命の大ピンチ!乞うご期待!
■ 積年の恨み
【前回までのあらすじ】
人気のない景清洞を前に立ちすくむカコ。新たなるアドベンチャーに身を投じることが出来るのか?!
鍾乳洞を愛する者ならば多少の闇など怖れはしない。事実就寝時には灯りがないと眠れないという意外に可愛い一面を持つ私も、洞内の暗がりにはビクともせず果敢に歩を進めていくマッチョな勇気を備えている。だがしかし!先程の運ちゃんが語ったおぞましい悲劇が脳裏にこびりつき、気持ちは萎えるばかりだ。誰一人いない洞内に踏み込んで、過去の惨劇の足跡を見つけてしまったらどうするのか。このやろう、怖いんだよ!これじゃ洞窟探検じゃなくてお化け屋敷探検じゃないか!
おまけにここ景清洞にはある伝説がある。この景清洞という名前は平家の武将・平景清に由来するのだ。壇の浦の戦に敗れた景清はこの鍾乳洞に隠れ住んだらしい。平家と言えば、あの世界で一番美味しい魔法の海産物・蟹にさえ暗い怨念を注ぎ込み、その甲良に人面を植え付けたという驚異の悪趣味一族である。鍾乳洞内のあらゆる岩岩にその恨みつらみがこもっていそうで、何とも恐ろしい。どうしよう、洞の奥深く、既に妖怪レベルにまで長生きしている景清が身を潜めていて、観光客を餌食に生を長らえていたりしたら・・・怖!!!
しかし入洞料を払ってしまったからには、足を踏み入れぬままこの場を去るわけには行かない。泣く泣く洞入り口へと進んでいく。と、右の視界端に赤い物体がよぎる。ん?何だ?振り返ってみると・・・闇に浮かぶ古びた鳥居・・・ギャアーーーー!!!イヤー!!!外へ逃げればいいものを、動転の為か愚かにも洞内の闇に逃げ込む私。気付いたときには微かな光を湛える入り口は遙か遠く、私は景清'sテリトリーの奥深くへと侵入してしまっていたのであった。辺りは闇。人っ子一人いない。恐怖がジワジワと内臓を締め付けてくる。危うしカコ!無事景清の魔手から逃れることが出来るのか?!次回「闇、それは恐怖と戦慄」乞うご期待!
■ 闇、それは恐怖と戦慄
闇と孤独は人を狂わせる。
あっ!これを読んで「ヘッまた大げさなことを書きやがって」と鼻でせせら笑ったソコのアンタ!これはどこかのこじゃれたJホラー小説のしがないワンフレーズだと思ったら大間違いだぞ!紛れもない真実だ!だって俺は己の身でこれを体験したんだからな!
想像しても御覧よ。振り返れば入り口の淡き光は遙か彼方に遠ざかり、行く手には何処まで続くのやらわからぬ闇の渦。足下はかろうじてアスファルト舗装されている頼りなげな細道。一歩道を外れれば剥き出しの岩石が歩を阻み、己の足音だけがコツーン・・・コツーン・・・と不吉な響きをこだまさせ、その足音さえも深い暗黒へと吸い込まれていく。そこここに何者か潜んでいそうな闇がジットリとうずくまり、恐怖のあまりその闇から目を逸らせずに立ちすくんでいると、何の前触れもことわりも無しに首筋へピタリピタリと落ちてくる水滴・・・ねっねっ怖いでしょ?そんな状況に己一人なのだよ?!大袈裟じゃないよ、本気で狂いそうになったよアタシャ。
でも不思議なものですね。恐怖も極限に達すると幾つかの段階を踏んで、精神が状況に適応してくるのです。私の場合、まず第一段階として「ジャイアン化現象」が起こりました。まず歌が口をついて出てきます。そして大股になり、俺様には怖いものなぞ皆無だという姿勢をとろうとします。そうしてズンズンと闇の奥へと進んでいくのです。この時自らの冷静な意思などという脆弱極まりないシロモノは大宇宙の片隅へと吹っ飛び、ただただ機械的に歩を進めているだけであります。
そうしてそろそろ虚勢を張るのも限界に達した頃に、今度は第二段階として「私をお花畑に連れてって現象」が始まります。つまり逃避ですね。私の場合、この旅行のお土産に何を買って帰ろうかという、至ってどうでもいい他人奉仕の議題を悶々と考え出しました。まぁ、こんな微力な精神的足掻きなど長くは続きませんがね。怖い夢を見た後に何か楽しいことを考えようとしても、脳裏にこびり付いた恐怖の映像がエンドレスで再生され続けるのと同じです。いくらお土産に意識を集中させようと試みてもバスの運ちゃんの言葉や平景清伝説が頭を支配し続ける。「観光客が誤って転落」「暗い洞内を彷徨って餓死」「未だ遺体発見されず」「平景清が隠れ住んだ」等々。
と、その時、恐怖に駆られた私の目に飛び込んできた物が!次回乞うご期待!
■ 誘われて分かれ道
【前回までのあらすじ】
平景清の怨念こもる暗闇で恐怖に駆られるカコ。その時彼女が見たものは?!
分かれ道。それは人生の岐路。己の人間レベルが試される恐怖のチョイス。真っ直ぐに突き進み破滅する者、小路に入り込み迷い死ぬ者、楽な道を選び刺激無き不毛の生涯を送る者・・・全ては己の両肩に懸かっている。貴方はどの分かれ道を進みますか・・・(←タ○リ風in「世にも奇妙な物語」)
闇の中、恐怖に我を失った私の目が捕らえた物も、これまた分かれ道であった。細々と続くアスファルト道、その端にひっそりと息を潜めるように伸びる分かれ道。その先を辿れば、視線は洞の脇腹、大きな岩陰へと導かれる。恐怖に支配されていた脳が再び本来の活動を始める。あの岩陰には何が潜むのか。わざわざ分かれ道が造られているのであるからして、何かしら重要な事柄が隠されているのやもしれぬ。そもそも私は此処へ何をしに来たのだ?!闇に怯え、ただ他人の手で作られた舗装道をトボトボと歩く為だけに、はるばる山口県まで足を運んだのか?!答えは否だ。私はそのような軟弱なおなごではない。例えその強さ故に数々の幸せを自らドブに捨てることになろうとも(←このフレーズに共感を覚える女性は大勢いると思われる)、それでも尚、合い言葉はアドベンチャー!!!俺に課せられた使命、それ即ち冒険也!!!平景清の怨念がなんぼのもんじゃい!!!もし奴が醜く老い朽ち果てた肉体をこの闇の中で生き長らえさせておるならば、浮き世の眩い光の元へとその姿を引きずり出してやろうではないか!!!そして「かに道楽」で一緒に蟹を食べ、二度とこのような美味しい海の幸に変な顔を刻んではいけませんよ、と諭してやるぜ!目標は定まった!いざ出陣!!!
見違えるほどしっかりとした足取りで分かれ道に踏み込む私。くらぁ!景清!出てこれるもんなら出てこいやぁ!ズンズンとやや上り坂の道を進んでいくと・・・そこにはポッカリと広がった岩の部屋・・・その暗がりに目を凝らした私の顔は恐怖に歪んだ。次回「驚愕!闇に浮かぶ影」乞うご期待!
■ 闇に潜む影
真の恐怖を感じた時、人間は叫ばないのだとわかった。ホラー映画等においては金髪&極大の母乳製造装置を搭載した女が恐怖の叫びを上げるシーンと頻繁に出くわすが、実際問題として失禁寸前・心神喪失一歩手前レベルの精神状態の中で、あんな力の入った腹式呼吸バッチリの悲鳴を上げられるわけがないのだ。暇潰しにこのショボイ文章を飛ばし読みしているソコの貴方、嘘だと思うなら冬の鍾乳洞、人っ子一人いない闇の中を孤独に彷徨ってみて御覧なさいよ。
実際私も、分かれ道の向こう、闇に霞む岩陰に何者かの気配を感じ、その姿を愚かにも目撃してしまったその瞬間、叫びを上げることが出来なかった。これ以上ないほどの無表情、蝋人形も真っ青の真顔でそのブツを見つめ、ソッと後ずさりし、その場を立ち去る。心臓の鼓動はオーバーヒート寸前。こんなに己の循環器が働いたのはこの世に生まれ出た瞬間以来だろう。そのドキドキ感たるや、我らの酸素運搬マシーン・ヘモグロビン君さえも潰れ塵と化すのではないかと思えるほどの激しさである。
で、一体何を目撃したのかと言うと・・・よく覚えていない。恐らくは、平景清の等身大人形だと思われる。あっ!アンタ今笑ったな?!なーんだ、大したことないじゃねーか、タダの人形にビビッてんのかよ、ってせせら笑っただろう?!嘘じゃねぇぞ、マジで怖いんだって!もう思い出すのも嫌なので敢えて此処では詳しい描写を避けるが、その古びた衣服を纏った虚ろな肉体からは確かに邪悪のオーラが漂っていた。こういう生物は冒険を志す者の範疇ではない。織田○道のテリトリーだろう。
再び恐怖に支配された私はパニックに襲われ、出口に向かって一目散に駆けだした。もーいやー!早くここから出たいよ!何処まで続いとるんじゃ、この穴ぐらは!早く出口!出口ー!!!だが、焦る私の視界に飛び込んできたのは、積年の恨みつらみの産物としか思えないような、恐怖の光景であった。一枚の看板。「ここからは洞窟探検コースとなっております。」無情に途切れる舗装道。照明も一切無し、天井低し。立ちすくむ私。何故か薄い笑いが頬に浮かぶ。踏み込めるわけねーだろうよ、あんな所に・・・。
白状します。私はプライドも何もかも捨て、来た道を駆け戻りました。入り口から出てくる時の安心感、そして限りなき恥辱感は忘れがたいものがあります。次回「もう戻れない〜禁断の恋〜」乞うご期待!
■ 帰りたい、帰れない
誰か!誰か人のいる所!こけつまろびつ、疾風の如き速さで洞から飛び出す。券売所の女が驚きの表情で私を見つめる。チクショー!俺カッコ悪ぃー!!!怨念野郎・景清の息の根を止めるどころか、未知の生物発見という通常任務さえ遂行できないこの体たらく。ぬあ〜〜屈辱だ!俺のバカー!俺よ死ね!!!
それでも一度切れた空威張りの線は再び修復されることもなく、私は臆病女丸出しのダメダメへっぴり腰で近くの温泉施設へと逃げ込んだのであった。思えば生まれてこの方、この時ほどこんなに人恋しいと感じたことはなかった。誰でもいい!バカでもデブでも瀕死のジジイでもノープロブレム!誰か、誰か、私の側にいてくれーーー!万一こんな時にナンパでもされたならば、例え相手が驚異のケミカルウォッシュ・ジーンズとピチピチのアニ○イトTシャツを着用したもち肌デブであったとしても、私は喜び勇んでそいつの後に付いていっただろう。
読者諸君よ、これから書き記すであろう後に起こった出来事に関しては、あくまでも私の精神状態が死にかけのヒヨコ級に弱っていたという点を、貴方様の素晴らしき頭脳に刻んでおいて頂きたい。凍てつくような冬空の下、私は出会ってしまった。あの人に。
温泉施設でお茶を飲み、何とか恐怖の残滓も薄らいだところで、今日は早めに宿へ帰りこの実に情けないアドベンチャーの結末を反省すると共に、次回景清洞リベンジ用とっておき☆任務遂行手段を検討しようと考えた私は、宿方面へ向かうバスが止まるであろうバス停へと向かった。そしてそこでまたしても裏に陰謀の匂いを感じずにはいられない恐ろしき窮地へ直面したのだ。
バスが・・・無い・・・あ゛あ゛ー!!!どうしよう!!!帰れないよ!!!宿からここまで少なくとも20分ノンストップでバスは走った。そのルートを徒歩で戻るとなれば軽く8kmはある。しかも忌まわしき事故の跡地であるカルスト台地を突っ切らなくてはならない。既にあたりには薄闇が訪れ、冷え込みも刻々と厳しくなっていく。死という文字が異様なリアル感を秘め、脳裏に浮かぶ。このままいけば明日の朝にはカルスト台地で凍死していること請け合い。いやー!!!助けて!誰か!エーンエーンどうしよう!
その時である。遙か遠くから力強い声が聞こえたのは。「おーい、どーしたぁ?」絶望に打ちひしがれた私の目がとらえたものは?!次回「愛の幻影」乞うご期待。
■ めぐり逢い〜愛か罠か〜
「おーい、どうしたぁ?」声のする方へ疲れた表情を向ける私。道路の向こうに黒い人影がぼんやりと見え隠れする。人影の横には軽トラらしき車の影。人だ!工事のおっちゃんかな?!眠っていた脳が再び本来の切れ味を取り戻す。何とかあの軽トラに乗り込み宿まで帰れないだろうか。素早く周囲を見回し状況を分析する。チラホラと作業中の人影が複数動いている点から判断するに、まだ仕事中のようだ。だがそこは口八丁手八丁、必要とあらば視覚器官搭載型・魔性の分泌線から体液を流し、愚かな人間共の心の隙間にダイブ・イン!ワハハハハ!もうオマエラは私の下僕よ!等と不敵な笑みを浮かべる私に再び飛んでくる声。「あったかい飲物やるからこっち来ーい」エッ?何かくれんの?わーいわーい・・・ん?ちょっと待てよ?おい!俺は餌付けされる野生動物か?ぬぅ〜敵もなかなかの策士だ。私が今一番欲している物を的確に予想しやがった。それを餌に罠へ追い込む魂胆か?!逡巡していると再び声が飛んでくる。「いいから来いって!」その声の迫力に気圧されフラフラと道路を渡り、人影に近づいた私が見たものは、予想もしなかった生物であった。
照りつける日射しに焼かれ色落ちしたようなダークブラウンの長髪。明らかに最強の大胸筋が眠っていそうな作業服の胸元。心配そうに私を見つめる切れ長の瞳。そう、私が罠にハメるべくターゲットに選んだ人影は、工事現場のオッチャンではなく、近年希に見る好青年であった。青年は軽トラの座席から数本の缶ジュースを取り出し、少々あたふたした手つきでその中からミルクティーの缶を選んで、呆気にとられ立ちつくす私の両手に押しつける。ほんわりと微かな温もりがかじかんだ指を溶かし出す。缶はあまり熱くない。この寒さだ。もう冷めかけているのだろう。青年は言い訳するように「買った時は温かかったんだけどなぁ。あはは」と大きな声で笑った。私もつられて笑いながら、まだ冷たい指先でミルクティーのプルリングを引っ張るが、なかなか開かない。読者諸君よ、言っておくがこれは計算じゃないぞ!普段の私ならば手近にあるありとあらゆる道具を使って意地でも自力で開けるんじゃ!だがこの時は違った。節くれ立った大きく無骨な手がスイと伸びて、固いプルリングをまるでセロテープでも剥がすように取り去る。
さあ、この状況だぞ!貴方ならどうする?!次回「恋は嵐のように」乞うご期待!
■ 行き行きて、ラブロード
※筆者極度の肩凝りの為しばし更新が滞りましたことをお詫び申し上げます。
【前回までのあらすじ】
北風吹きすさぶ台地の上、青年に拾われたカコ。無事に宿へと帰り着くことが出来るのか?!衝撃のラブサスペンス、結末はいかに?!
縁石に腰を下ろして温いミルクティーを啜りながら、最後の陽光が台地の暗闇に姿を消していく様を眺める。沈みゆく最後の光の中、黙々と作業を続ける青年の姿。私を死の淵から救ってくれたその人は、まだ仕事中であるにもかかわらず、早めに作業を切り上げて私を宿まで送ると言った。現場主任に必死に頭を下げて事情を説明する青年の後ろ姿を見つめながら、私は・・・・・
あーーーもう!!!白状するさ!!!「この人しかいない」と思いましたよ!!!今思い返せば当時の自分に対し寒気に加えて嘔吐感すら覚えるが、確かにあの時俺は恋していたね。弱っていた自分を助けてくれた青年。しかも筋肉質。しかもまるで何者かによって魔の演出を施されたとしか思えないプルリング事件。ここまで周到に揃いし魔のトライアングル、この甘酸っぱいシチュエーションに洗脳されない女がいると思うか、おいアンタ?!
そうしてすっかりまともな思考能力を失った私は、30分後、青年の軽トラに乗り、日の落ちた冬の秋吉台を満ち足りた心持ちで眺めていた。台地の所々に設置された柵に秘められし過去の惨劇に怯え、アドベンチャーを達成できなかったことを悔いていた自分は何処へかきれいさっぱりと消失し、今脳細胞が使われているのは「いかにベストの自分を演出するか」、この目的の為のみ也!穴に落ちて死んだ奴らが何だ!死人に口無し!俺の知ったことか!何?アドベンチャー?20歳も過ぎてそんな子供じみた事に貴重な時を費やすなんて、卑しき愚民のすることよね〜これからはやっぱり恋愛じゃねーの?なっ、人間愛が大事だよな、愛!!!愛ではなくネタ、恋人ではなく男友達ばかりに恵まれ続けて早20年、でもそんな不毛の人生に今終止符が打たれるんだわ・・・万歳!俺最高!
理性を失い独り突っ走り出す私。これから宿までの約20分でこの青年を釣り上げなければ!!!怒濤の心理作戦の火蓋が今切って落とされる!次回「恋のトークバトル〜あいつのハートを射抜いちゃうぞ☆〜」乞うご期待!!!
■ 恋のバトルトーク〜走り出したら止まらない〜
徐々に暖かくなってくる車内。ハンドルを握る日焼けした腕を横目に、シートに身を沈め暫しの至福を味わう私。外目にはのんびりした光景だが、一皮剥けば我が脳細胞は既に6速辺りまでギアチェンジ完了、これから始まる一世一代のトークバトルに備えありとあらゆる戦法を吟味し練り上げていた。これから宿までの約20分間という短時間内にこの青年に至上最強レベルの好印象を植え付けねばならない。状況がお膳立てされた合コン等の当世軽薄座談会とは違い、これは予想外のハプニングミート、これこそ正真正銘のザ☆出会いというものだ。マニュアル化されたトーク戦法では成し得ないこのミッション。辛い任務になりそうだ。
それにしてもこのシチュエーション。読者諸君は味わったことがおありだろうか。見ず知らずの異性に己の運命を握られているというこの瞬間。青年の御機嫌一つで私は寒空の下に放り出されるかもしれないのだ。このスリル!この冒険!相手に圧倒的優位に立たれるこの快感!・・・触れてはいけない己の闇に触れてしまったような気がした、カコ20歳の冬。方向性がおかしくなってきた為、これ以上の内的描写は自主規制します。ご了承下さい。物語の本筋に戻ります。
「びっくりしたよ。あんな所に女の子一人で立ってたから」それまで無言でハンドルを握っていた青年が口を開いた。来たぁ!戦、開始!
まずこの段階で私が確実に成さねばならぬ任務は何と言っても「一人旅である事」を強調する事である。本当は秋芳洞探検任務終了後、島根県在住の旧友の所へ遊びに行く予定なのだが、その点については一時的に忘却することにし、あくまでも「貴方しか頼る人がいないのよ」という姿勢を全面に押し出す。北国から一人旅に挑戦しようとはるばる山口県までやってきました小娘でございますと、まずは自己紹介。この時点で手際よく青年の姓名を聞き出すことに成功。任務状況は良好だ。軽トラの腹部に記された会社名と氏名から個人の特定が可能になる。この段階で早くも一つの方向性が決定。私のフルネームと連絡先は初期段階時点では教えないことにする。そして相手が諦めかけたところで翌日会社にお礼の電話!どうだ!悪代官も真っ青のこの策略!ナイス・トラッピング!な〜んだぁ〜意外に簡単じゃないか!偶然の出会いに関しては全くの三等兵である私でも、おいおいコリャ一気に下克上で将軍クラスか?いい滑り出しだぞ、カコ!
■トーク谷の決戦
【前回までのあらすじ】
和やかな車中の空気とは裏腹に、壮大な心理作戦を秘めたバトルトークの戦禍は広がりつつあった・・・。勝利は誰の手に?!カコVS筋肉青年!世紀の戦いが今炎を上げる!
青年の個人特定が可能になった時点で速やかに作戦の方向性を見定めた私。いくら青年が執拗に尋ねてこようとも、名前以外は決して明かすまい。名付けて「見つめるCAT'S
EYE ミステリアスガール作戦」。トークバトルにおいて勝利の鍵を握るのは情報操作である。いかにして相手の弱点を見抜き且つ己の隙は決して見せずに和やかなトークタイムを演出するか。これが最大のポイント也!さあ試合開始だ!
まず青年は私が北の大地の人間である点に目を付けたらしく、次のような言葉の球を投げてきた。
「北○道かぁ。毎日カニ食ってそうでいいよな」
北国出身と言うと誰もが食いついてくるゾーンに球を投げた青年。意外に判断能力は凡人並である。しかも「カニ」。この発想の貧困ぶり!それじゃあなにか!大阪人は毎日食いだおれでたこ焼きとお好み焼きを喰らっているのか?!京都人は毎日八つ橋三昧か!沖縄人は毎日海葡萄食ってんのかよ!私は初対面時におけるこのような発言、つまり「ウケを狙っているのか本当にただのバカなのか」判断の付かないトークを何よりも嫌う。出会いの瞬間が劇的だっただけに、この失点は痛いぞ青年よ。しかし私も良い大人。ここで「カニなんて高いもん毎日食えるワケねーだろ。それにカニだって毎日食ってたら美味いもんでもなくなるだろうがバーカバーカ」等と乱暴にファールを連発することは控えるべきであろう。
「あはは。あと、じゃがいもとか?毎日食べてそう?」そつなき笑顔で難なく打ち返す私。どうだ!参ったか!長年の人間関係の渦中で培った、己を捨て去りとことん相手に合わせるトーク技。これにかかれば大概の人間は「カコちゃんていい人だよね」「聞き上手だよね」等と偽りの仮面を鵜呑みにし、その後延々と私の魔手で演出された幻の舞台で踊り続けるハメになるのだ。バカめ!かかったな、青年よ!
しかし次に青年が放ったのは恐るべき魔球であった。
「じゃがいもなぁ。一回北○道行って美味いカレー食いてーな」
さあ、どうするカコ!この青年の一言のどこらへんが魔球なのか、それは次回のお楽しみ!待て次号!
■ その言葉が狂わせる
※筆者再び肩コリの為しばし更新が滞ったことを心よりお詫び申し上げます。
【前回までのあらすじ】
軽トラ内で繰り広げられる互いのハートを賭けた熱きトークバトル。青年は思いもかけぬリーサルウェポンを所持していた。
「美味いカレーを食したい」青年は言った。この一言のどの部分が私にとって致命的であるかと言うと、「カレー」。この言葉である。カレー!!!この無常の世界に堕とされて早23年、私はこの食べ物だけを愛し続けて生きてきた。私が「この憂き世で見つけたひとひらの幸せ」と呼び、愛しんでやまない魔性のハーモニーディッシュ。飯とカレーがあれば私はどんな苦境も乗り越えてみせる。思えば「カレーの王○様」を食し「これはカレーじゃないよ、お母さん!」と憤ったあの日から、私のこだわりカレー人生が始まったのだ。学生時代にはカレーが最高潮の煮詰まり具合を醸し出す夕方を狙いすまして食堂に現れたり、夜な夜な台所で小麦粉とバターを延々と炒め続け自家製黄金カレールー作成ミッションを遂行したり、今まで恋愛に注がれるべきであった情熱を全てカレーに注ぎ込んでしまっていた感は否めない。そんな時まるでタイミングを見計らったように、まさしく本当の意味で「カレーの王子○」と呼ぶに相応しい異性にめぐり逢ってしまったのだ。おお!貴方もカレーがお好きなのね!ジュテーム!アイラブユー!アイウォンチュー!それまで緻密に張り巡らせていた心理作戦の網はもはや見る影もなく消滅し、自分と青年が仲良くカレーを煮込んでいる幻覚が恐ろしい浸食力で脳を支配し始める。
この時点で既に私の敗北が決定的になったトークバトルであったが、青年は更に追い打ちをかけるように魔弾の言葉を投げる。「鍾乳洞見に来たのか。あれって探険ぽくて面白いよなぁ」た・・・・たんけん?!今探険って言った?!イヤー!もう勘弁してーー!何故そこまで私の心をくすぐる台詞を吐くのだおのれは!!!
と、青年は終始このような調子で「ゲゲゲの鬼○郎」「内村光○」「カツオのたたき」等々私の心の鍵を一撃で大破しオープンマインドへと導く数々のキーワードを連発し、最終的に宿へ近づく頃には互いの半生を語り合うまでに打ち解けていたのであった。しかし1秒毎に近づいていく二人のハートを引き裂くように、街灯の光輪に影を落とす宿の姿が視界に入り始める。二人の情熱の行方は?!次回乞うご期待!
■ 女が牙を失う瞬間〜完全敗北〜
宿の玄関へと続く凍てついた坂道を軽トラは静かに進む。この満ち足りた時はもうすぐ終わりを告げるのだ。心なしか言葉少なになる二人。それでも無常に近づく宿の灯り。窓から漏れる暖かい光の輪に、軽トラのヘッドライトが混じる。あ〜あ、着いちまったか・・・もはや自分の仕掛けた心理作戦の戦果を検討することも忘れ、ひたすらこの暖かい車内に留まっていたいと願う私。もっと話したい事があったのに。これだけの良質筋肉を目の前に、まだ二の腕回りのサイズも胸囲も訊けてない・・・うぅ・・・せめて太股回りだけでも・・・しかし至福の時間は永遠ではない。青年がゆっくりとブレーキを踏み込み、車は静かに歩みを止める。
チキショーーー!!!降りたくねぇ!!!でもいつまでもシートにへばり付いているわけにもいかず、ノロノロと身支度しドアに手をかける。と、その時、運転席側のドアがバタンと音を立てる。顔を上げるとガチャリと目の前のドアが開き、差し出される大きな掌。ギャアーーー!!!何コレ?!何?!もしかして映画とかでよくやってるアレか??!!降車の際にこのような扱いを受けたことなど、この世に生まれ堕ちてこの方一度たりとも無かった私。いつも自らの手で元気にドアを開け車から降りていた我が半生、こんな麗しい降車方法が存在しようとは白昼夢にさえ見たことがないぞ!!!何だこの状況は!おいおい、もしや地球の自転が反対回りになってるとか、大宇宙に何か異変が起こっているのではあるまいな?!
恐る恐る青年の手につかまり、軽トラの高いシートから地面へと足を降ろす。緊張のせいか異様に冷たい私の指先に、青年の体温がほんわりと伝わってくる。うわぁ・・・何だか・・・もんのすごい偉業を達成した気分!!!くぅ〜〜もうちょっと可愛いマニキュア塗っとけば良かった・・・既に脳細胞はまともな思考能力を根こそぎ喪失、常日頃から追い求めている「笑い」「ネタ」等の観念は頭の隅の隅まで追いやられ、かろうじて「ありがとう」という至って面白くも何ともない凡庸な一言を絞り出す私。青年は返事代わりに軽く笑う。
どうだ!!!この絵に描いたような状況!!!「猫被ってんじゃねーぞ」「あの時のオマエは本当のオマエじゃない」等の指摘・苦情等は一切受け付けません!さあ、どうなる青年とカコ!このまま二人は引き裂かれてしまうのか?!次回乞うご期待!
■別れの詩〜愛しき人は遙か彼方〜
※筆者週末のアルコール摂取による左肩激痛に沈没、またも更新が滞ったことを深くお詫び申し上げます。
21:00。宿の自室で独り仮死状態。テーブルに突っ伏し呆けた眼差しで窓外の闇を見つめる私。指先に微かに残る温かい手の感触と、遠く霞んでいく軽トラのテールランプが脳裏に浮かんでは消え、消えては浮かぶ。冬の風吹きすさぶ大地の片隅、冷静且つ計算され尽くした完璧な任務遂行によって珠玉のネタを作成し周囲に笑いを提供するお笑いハンターとしての私の人生は一時的な終局を迎え、私が最も憧れそして同時に忌み嫌う生物が今、誕生しようとしていた。その恐るべき生物の名は・・・「恋する乙女星人」。あの人を思うだけで高鳴る鼓動、熱くなるこの胸。私のDNAは今確実に変化を遂げようとしている。ブラボー!!!
さて、青年と共に宿へ雪崩れ込む展開を期待していた煩悩丸出し野次馬読者の皆様方、私が青年に手を引かれ車から降りた後の出来事を話そう。私はあの時致命的なミスを犯した。そして青年が遠く去ってしまってからそのミスの重大性に気付いたのだ。軽くクラクションを鳴らし去っていく青年の軽トラ。手を振る私。・・・?アレ?何か足りない・・・。そう。青年は私のフルネームと連絡先を一度も尋ねなかったのであった。ええ?!ということは青年は・・・
→カコに一切興味無し
・・・ぐぉぁぁぁぁぁぁ!!!私が緻密な計算の元に考案した任務遂行手段「見つめるCAT'S
EYE☆ミステリアスガール作戦」が、これでは根底から実行不能ではないか!!!知りたいという気持ち前提にあればこそミステリアスな状況が演出されるわけであり、これでは青年のハート捕獲ミッション遂行状況は失敗である。・・・そんな・・・そんな馬鹿な!イヤー!ちょっと待ってくれ青年よ!アンタあれだけ私の心を鷲掴みにしておいて何も言わずに去ってしまうのか?!待ってーーー!行かないでーーー!心の叫びも虚しく軽トラは走り去り、私は枯れ葉舞う寒空の下、独り。
こうして青年との二次接触が非常に困難な状況下に追い詰められた私は、宿の自室で独り悶々と想念を巡らす夜を過ごすハメに陥ったのであった。うぅ・・・もう会えないかな・・・せっかく見つけた「カレーの王○様」が・・・
と、その時!涙に暮れるカコの背後で何かが音を発した!!!鳴り響くその音色は悪魔の囁きか天の恵みか?!次回乞うご期待!
■別れの詩〜愛しき人は遙か彼方〜
※筆者週末のアルコール摂取による左肩激痛に沈没、またも更新が滞ったことを深くお詫び申し上げます。
21:00。宿の自室で独り仮死状態。テーブルに突っ伏し呆けた眼差しで窓外の闇を見つめる私。指先に微かに残る温かい手の感触と、遠く霞んでいく軽トラのテールランプが脳裏に浮かんでは消え、消えては浮かぶ。冬の風吹きすさぶ大地の片隅、冷静且つ計算され尽くした完璧な任務遂行によって珠玉のネタを作成し周囲に笑いを提供するお笑いハンターとしての私の人生は一時的な終局を迎え、私が最も憧れそして同時に忌み嫌う生物が今、誕生しようとしていた。その恐るべき生物の名は・・・「恋する乙女星人」。あの人を思うだけで高鳴る鼓動、熱くなるこの胸。私のDNAは今確実に変化を遂げようとしている。ブラボー!!!
さて、青年と共に宿へ雪崩れ込む展開を期待していた煩悩丸出し野次馬読者の皆様方、私が青年に手を引かれ車から降りた後の出来事を話そう。私はあの時致命的なミスを犯した。そして青年が遠く去ってしまってからそのミスの重大性に気付いたのだ。軽くクラクションを鳴らし去っていく青年の軽トラ。手を振る私。・・・?アレ?何か足りない・・・。そう。青年は私のフルネームと連絡先を一度も尋ねなかったのであった。ええ?!ということは青年は・・・
→カコに一切興味無し
・・・ぐぉぁぁぁぁぁぁ!!!私が緻密な計算の元に考案した任務遂行手段「見つめるCAT'S
EYE☆ミステリアスガール作戦」が、これでは根底から実行不能ではないか!!!知りたいという気持ち前提にあればこそミステリアスな状況が演出されるわけであり、これでは青年のハート捕獲ミッション遂行状況は失敗である。・・・そんな・・・そんな馬鹿な!イヤー!ちょっと待ってくれ青年よ!アンタあれだけ私の心を鷲掴みにしておいて何も言わずに去ってしまうのか?!待ってーーー!行かないでーーー!心の叫びも虚しく軽トラは走り去り、私は枯れ葉舞う寒空の下、独り。
こうして青年との二次接触が非常に困難な状況下に追い詰められた私は、宿の自室で独り悶々と想念を巡らす夜を過ごすハメに陥ったのであった。うぅ・・・もう会えないかな・・・せっかく見つけた「カレーの王○様」が・・・
と、その時!涙に暮れるカコの背後で何かが音を発した!!!鳴り響くその音色は悪魔の囁きか天の恵みか?!次回乞うご期待!
■ 魅惑のラブダイヤル〜君のハートにゲットアクセス☆〜
一切の呪縛から解き放たれ思う限りの冒険と悪行を実行する為、旅中の連絡先は核ミサイル発射コード級の最大極秘事項として慎重に取り扱い、極一部の選ばれし人間共にしか教えなかったはずである。だが驚きに見開かれた私の目の前で、確かに部屋の電話は乾いた叫びを上げていた。こんな時間に?誰から?恐る恐る受話器を耳に当てる。聞き慣れた女将さんの声。
「外線入ってるから繋ぎますよ。」
・・・外線?誰だ?はるばる山口県まで私のケツを追い回して来る奴は?よりによって大宇宙に数える程しか存在しない魔性の生物「カレーの王○様」を生捕りに出来るかどうかの瀬戸際に、わざわざ電話回線を通じてまで俺様のミッションの邪魔をしに来るとは、不届き千万!!!万死に値する!!!沸々とたぎる怒りを秘め、静かに答える私。
「・・・わかりました。繋いで下さい。」
ああ!回線が切り替わる微かな音の後、耳に飛び込んできたあの響きを私は生涯忘れないだろう。今、ほんの一瞬前まで欲して欲して狂おしいほどに望み続けたあの声が、震える手に握られた受話器から流れ出たあの一刹那をどう表現すればよいのか。私の理性も計算も、あまつさえ約20年もの長き歳月に渡り培われた背徳と笑いを愛する感性さえも瞬時に塵へと打ち砕き、大脳から脊髄レベルに至るまで花咲乱れるピンク色の高原へと誘った、あの声。
「俺俺!わかる?」
わわわわ、わかるもなにも!!!その掠れ気味の麗しき御声はまさしく・・・MY DARLIN'☆「カレーの王○様」!!!気の利いた返事も思い浮かばず唯ヘナヘナと床に座り込む私。念の為読者の皆々様へ申し上げておくが、この実にヘッピリ極まりない腰抜けリアクションはフィクションではない。紛れもない事実である。生涯最大の恥辱と言っても過言ではないこの驚異の出来事を嘘偽り無く率直に告白した私に対し、どうか惜しみなき拍手を送って下さい。
そんな状況にもかかわらず、動揺した私の神経を嬲るかのように青年の言葉が耳元で踊る。
「下の名前しか聞いてなかったから、呼び出してもらうのに苦労した!アハハ」
さあ!この状況!懐かしの我らが恋愛バイブル、少女の幻惑が封じられし最後の聖櫃、「りぼ○」を思い起こした女性読者の皆さんも多数いらっしゃるでしょう!諦めかけた恋の灯火はまだ消えてはいなかった!カコの情熱は紅蓮の炎となって燃え上がるのか?!次回乞うご期待!
■ 蜜月
【前回までのあらすじ】
カコの手に握られた受話器から流れ出たのは麗しきかの青年の御声であった。耳元で二人が語らうのは愛か別れか?!
「見つめるCAT'S EYE☆ミステリアスガール作戦 NEW EDITION」を敏速且つ冷静に実行する事。青年との二次接触が思わぬ形で実現した今、これこそが我が最大の使命である事は明々白々である。が、耳元を擽る青年の声音に私の理性は完全崩壊、かろうじて蚊の鳴くような声を絞り出すのが精一杯。
「あ、あの、さっきは、どうも、ありがとうございました」(←何故か丁寧語調)笑って答える青年。
「アハハ、そんなの気にすんなって!あ、いつまでこっちにいる予定?」
え?!今後の予定?!あわわわわわわ、えっと・・・
「それが、明日の朝、友達の、所に、行くことに、なってて」
痛恨のミス。我が神経系統が本来の働きを行っていれば決して犯さないはずの愚かな間違いである。普段の私ならば、友人と「カレーの王○様」が濁流に呑まれ苦しみ藻掻く様を素早く脳内ビジョンに映し出し、迷わず「カレーの王○様」に救助の手を差し伸べる自分を想起する事により、最小限のエネルギーで最大限の効果を挙げる台詞を首尾良く口にしていたはずなのだ。(ex.「特に予定とか無いの。もう少し・・・こっちにいようかな(←語尾に軽い照れ笑いを添付)」)俺のバカーーー!!!こんな時に友人の事なんぞ持ち出してる場合か!
「え?!明日?!」
青年の声に驚きと落胆の色が混じる。自らの失態に呆然の私。沈黙を避けるように言葉を繋ぐ青年。
「・・・友達って・・・彼氏?」
傷付いたような口調。ウソォ!これは何?!どういう現象?!ねぇちょっと、これが噂のヤキモチってやつか?!ジェラシーってやつなのか?!!!!かの名作擬似恋愛遊戯「とき○きメ○リアル」で予想外のイベントが発生した時のような、この充実感、躍動感、陶酔感!・・・ん?でもこの問いに対してどう答えれば良いのだ・・・???私が会う予定である友人の性別は一応「男」である。彼氏ではないにしろ、男の所へホイホイ遊びに行く女だと思われたら・・・あ゛ーーー!!!どうしよう!!!嫌われちゃう!何て答えればいいのーー!!!
と、その時である。まともな思考能力を失ったはずの私の口から、思いもよらないフレーズが飛び出した!どうなるカコと青年!次回乞うご期待!
■ 乙女心と野望の果てに
筆者を良く知る方々ならば既にお気付きだろうが、この生涯初めての一人旅、私の任務は鍾乳洞探険等という矮小な事柄だけではない。ここ秋吉台で大地の生み出した芸術の穴を闊歩し肉体派アドベンチャー任務を遂行するだけでは、満たされるのは己の中の少年心のみ、即ち一切の世俗的利益を得る事が出来ないのである。泥にまみれた金の亡者、「将来の配偶者は石油王のドラ息子」と固い決心を公言して憚らない女、資本主義の産んだ最強淑女ともあろうこの私が、単に己の冒険心を満たす為だけに遙々生国を離れるわけがないだろう!フハハハハ!
そう、秋吉台を制覇した後に私が目指すのは我らが日本の古が息づく最後の砦・島根県。この魅惑のワンダーランドには確実に金になると思われる史上最大の財宝が眠っているのだ!さぁ、愛も欲しいが金も欲しい、そんなえげつない性根の持ち主であるソコの貴方!気になる?気になるでしょ?私が追い求める「金のなる木」の正体とは果たして何なのか?!まだ教えません。教えたらアンタその時点でこの日記読むのやめちゃうでしょ。そんくらいお見通しだ!真実はこれからの連載で追々明かしてやるからせいぜい首を長くして待つがいいさ。
さて、そんな私の「この〜木何の木、金なる木〜☆平成の億万長者作戦」に任務補佐として参加してくれるのが、明日会いに行く予定の旧友なのだ。彼は既に3年近く島根に住みついている為、任務遂行の地理的サポートとしては最適の人材であり、忙しいアルバイトの時間を都合してまで私の任務に協力の手を差し伸べてくれた素晴らしい人間である。
そして今。受話器の向こうで我が愛する「カレーの王○様」が問う。「その旧友とやらは君の彼氏なのか」と。・・・う・・・うわぁぁぁ!どうしよう!例え「彼氏ではない」と答えたとしても、友人の性別が男だとバレれば決して良い印象は持たれない。生涯に一度の出会いかもしれないこのチャンスを絶対に逃すわけにはいかない!どうすればいい?!どうすれば??!!もはや我が神経細胞間には一筋の電流さえも流れず、思考は完璧にフリーズ状態。万事休す。
しかし次の瞬間、驚くべき現象が私を襲った。脳が一切の働きを停止した状況下、その現象はすさまじい勢いで私の肉体を支配し、実に恐ろしい事態へと私を導いていったのであった・・・カコを襲った異変とは?!次回乞うご期待!
■ XXの申し子
突然だが皆さんは「性悪説」なる理論を御存知だろうか。私の朧気な記憶に依れば「性悪説」とは荀子とかいう謎のチャイニーズが編み出した、史上最強の言い逃れ理論である。私同様一般教養を素直に享受した人間ならば、この謎に満ちた理論が主張するところはご記憶だろうが、今一度その内容を振り返ってみよう。至って簡潔且つ見事に真を突くその思想の内容とは、
「人間の本質は元来悪である」
という一言に集約される。私は高校で勉学に励む中この理論に出会い、深く感銘を受けた。まず第一に「人間は悪である」と言い放っておきながら不敵にも倫理の授業内容として取り上げられているあたりが何とも矛盾に満ち満ちていて実に面白い。そして何と言っても白眉なのが、「性悪説」は「人間の本質は悪だ」と定義しているのであるからして、この思想に依拠すれば己が意図せずに引き起こしてしまった悪行を「人間の本質」即ち俗に「本能」と呼ばれる遺伝子レベルの判断処理能力のせいにしてしまえる点である。何という完璧な言い逃れ理論!これほど実用的思想が未だかつてこの世に存在しただろうか!
なーんて、クドクドと妙な古代思想解説で幕を開けた今日の旅日記ですが、つまり私が言わんとしている事はですね、一切の論理的思考が停止した状態で私が青年に返した恐るべき言葉は、「恋する乙女星人」へと一時的進化を遂げた私の体内に宿るXXという女性遺伝子の働きにより発生した行動であり、私個人の正義や良心等の人格的諸要素には一切関係が無いものであるという点を前もって断っておきたい、ただそれだけなのです。
あの言葉。青年の問いに対し電光石火の如く何の躊躇も無く私が発した、あの一言。
青年「その友達って・・・彼氏?」
カコ「ううん、ちがうちがう、女の子だよ。高校の時の友達なの」
はぁ〜〜〜〜〜い!!!裏切っちゃいました!!!今までなにかと世話になってきた良き友の性別を、糸も簡単に偽っちゃいました!!!いやぁ〜〜女って怖いですね!!!あっ、でも私が悪いんじゃないんですよ、遺伝子が悪いんです。本能には逆らえません。私のこの発言に対し「カコちゃんひどぉーい、サイテー」等とカマトトぶった非難を投げる方は私の脳内ファイルからその存在を抹消し、この世にいないものとみなします。
さて次回!二人の語らいの結末やいかに!世紀末ラブサスペンスはいよいよ大詰め!乞うご期待!
■ 恋のミッドナイトレース
【前回までのあらすじ】
青年の問いに対し、人として失格一歩手前の台詞を吐いたカコ。自らの言動に戦きながらも愛の語らいに身を委ねる彼女の運命は?!
友人の性別を偽る。果たしてこの嘘が「カレーの王○様」のハートを射止める足掛かりとなってくれるのだろうか。震える手で受話器を握りしめ、青年の反応を待つ私。しばしの沈黙。そして、再び耳元に踊る青年の声。
「あー!そうなんだ!ふーん、そっか、女の子か、あー良かった!」
言い終えた後で少し恥ずかしそうに笑う青年。・・・イヤーー!何よ!その無邪気な少年のようなリアクションは!普段は頼れるお兄さん的、でも時には子供っぽい一面も垣間見せるなんて、流石です!「カレーの王○様」!!!友情が何だ!愛より尊きものなどこの世に在らず!!!嘘ついてなんぼだ!虚言万歳!!!友人の存在など大宇宙の片隅に舞う塵のようなもの、掃いて捨ててしまえば最初から無かったも同じ!ワハハハハ!良心?後悔?そんなもん知ったことか!!!
あまりにも胸を打つ青年のリアクションに、まともな思考能力どころか一切の人間的倫理観までも木っ端微塵と化す私。そこへまたも追い打ちをかけるように響いてくる青年の声。
「俺今仕事あがったんだけど、どっか飲みに行かないかなーと思って」
ウソォ!今何て言った?!これから会えるってことか?!オイオイどーするよ!こりゃ本当に一生に一度の大異変かもしれないぞ?!きっと惑星の配置が上手い具合に作用して私の運勢に何らかのプラネットパワーを与えているに違いない!それとも磁場か?この秋吉台の磁界に何か偶然の出会いを誘発する作用でもあるのか?!
もはや母国語さえも一時的に忘却してしまいそうな程興奮状態の私であったが、そこは心配無用、女には本能という強い味方が付いている。思考不能の脳細胞に代わり「恋する乙女星人」のDNAが塩基レベルの計算を始め、そつなき答えを用意する。ここでホイホイ二つ返事で飲みに行ってしまっては私の品性というものが疑われ、「カレーの王子○」の好印象を掴むことは出来ない。形だけでも一度は辞退する奥ゆかしさを見せておくべきだろう。完璧な「可愛くて初々しい女の子」の声音でそつなく返す私。
「どうしようかな・・・行きたいけど・・・もう時間も遅いし・・・」
さあ!再び切って落とされた恋の駆け引きバトルトーク第2ラウンド!次回乞うご期待!
■ 微かな翳り
【前回までのあらすじ】
いよいよ幕を開けた恋のバトルトーク第2ラウンド。青年とカコ、二人が織りなす世紀末ラブサスペンスはいよいよ大詰め!
「夜遅くなってから殿方と飲みに行くなんてはしたないですわ」と、そつなく淑女の仮面を被る私。たとえ脳が働かずとも「恋する乙女星人」のDNAが完璧な計算の元に言葉を選んでくれる。「遅くなるからダメ」と躊躇すれば「車で送るから大丈夫」と答えが返ってくるのが大宇宙の絶対理論、そこで「じゃあ一杯くらいなら」とオッケーすれば「カレーの王○様」の姿をもう一度拝める!ブラボー!
そして案の定、こちらの読みどおりに食い下がる青年。
「大丈夫だって、俺車で行くから」
ほぉ〜ら、やっぱり!「カレーの王○様」とて所詮は唯の人間!さぁ〜てと、ここらへんで色好い返事を返すとするか・・・。と、その時。私の耳に飛び込んで来る信じられないフレーズ。
「あ、それとも俺がそっちの部屋行って飲もうか?」
・・・?・・・??今何て言った???私の中の乙女星人がいち早く言葉の意味を察知し狂喜乱舞する。同時に一方では今まで開店休業状態であった脳細胞の一部が本来の塩基配列を取り戻し、少しづつ働き出す冷静な思考能力。何か・・・何かおかしいぞ・・・。出会いの瞬間から今までの短い期間に蓄積された「カレーの王○様」に関する情報が脳内を駆け巡る。はにかみながらミルクティーを差し出した青年。私の為に一生懸命現場主任に頭を下げていた青年。笑顔で私の手をとり車から降ろしてくれた青年。そしてこの発言である。どうも噛み合わない。何か変だ・・・。
とは言え、私はこのような正真正銘の偶然系出会いに関する経験値が皆無である。見ず知らずの人間同士が短期間で恋に落ちるにはそれなりの勢いが必要とされるのかも知れない。よく考えろカコ!もしも神と人間のボスとの間で「偶然の運命的出会いは一生に一度とする」等という密約が交わされていたりしたら、このチャンスを無駄に帰してはいけないぞ!どうする?!どうすればいい?!
「恋する乙女星人」としての自分と本来の冷静且つ慎重な自分がせめぎあう中、私は一つの決断を下した。今までは青年のハートをいかに射止めるかに心を砕いていた私。その前にやらねばならない任務があったではないか。その任務とは・・・
青年の本来の姿を見極める事。
どうなる青年とカコ!次回乞うご期待!
■ 本当の貴方
【前回までのあらすじ】
青年の思いがけない言葉に何かを感じ取り、重要な任務を愚かにも忘れていた事に気付くカコ。愛と謎のベールに包まれた青年の正体は神か悪魔か?!
青年の発した予想外の言動に狼狽える私。そして「恋は盲目」という陳腐な格言が奇妙なリアル感を伴って脳裏に浮かび始める。二人が出会ってから流れた時間はまだ半日。私は青年の何を知り何を愛しているというのか。家族、生い立ち、胸囲、体脂肪率・・・あぁ!何も知らないではないか!強いて挙げるとするならば、
1.筋肉
2.カレー好きなところ(よって心の中で「カレーの王○様」と命名)
3.たぶんいい人(助けてくれたから)
以上。これで全部。少ねぇ!!!しかも恐ろしく低レベル!!!ぬぅ・・・認めたくはないがこの体たらくでは、「恋する乙女星人」へと脱皮を遂げた私の両眼は曇ったガラス玉に堕したも同然、ここは青年の本質を見極めるべく冷静な観察眼を取り戻し慎重なバトルトークを展開するべきであろう。今までの試合状況は青年の圧倒的優勢、ボクシングに例えるならば、理性を失った私は相手の懐に鼻面を突っ込み効きもしないボディを闇雲に連発していたようなものである。だがしかし!本来の私は典型的なアウトボクサーなのだ!ボクシングについての知識が少ない読者の為に軽く解説を致しますと、アウトボクサーというのはですね、絶えず相手と距離を取って動きを見切り、隙を突いて渾身の一撃を見舞うという戦い方をするボクサーのことでございます。即ち!トークの戦に例えれば、相手の繰り出すパンチつまり発言を事細かく分析して相手の真意を読み取り、最後の最後に最も効果的な攻撃を仕掛けるという実に狡猾且つ賢明な戦法なのだ!そうして青年の真実の姿を見極め、彼が正真正銘の「カレーの王○様」であることが確信されたその時は、再び「恋する乙女星人」と化し至福の時間を満喫すれば良い。信じてるわ!MY
DARLIN'☆カレーの王○様!
早速左ジャブで相手との距離を取る私。部屋で飲みたいと主張する青年に対し当たり障りの無い言葉を返してみる。
「え、悪いよォ、こっちまで来て貰うなんて。明日仕事あるんでしょ?」
ブラボー!相手を気遣うように見せかけて微妙に論点をずらすこのテクニック!一時は骨抜きにされたかと思われた我が理性、まだまだ健在です!負けてません!いいぞその調子だカコ!次回乞うご期待!
■大人への階段
陽もとうに暮れ魑魅魍魎が跋扈する冬の深夜、私の部屋に来たいと物申す青年。その言葉に何かの予兆を感じ新たなる任務実行に踏み出す私。何としても青年の真実を知りたい。名付けて「貴方の全てをTELL
ME PLEASE☆恋の潜入ミッション」。PM10:30。この今世紀最大の任務を私は密やかに開始した。以下の会話は任務状況に関する詳述である。
PM10:30:01 会話1 カコ「でも・・・明日仕事あるんでしょ?」
青年「大丈夫大丈夫!そんな早くないし」
PM10:30:07 会話2 カコ「旅館の自販機、ビールしか無いよ?」
青年「あ、じゃあ俺何か買って行ってやるから」
PM10:30:12 会話3 カコ「こんな遅くに女将さん迷惑じゃないかな」
青年「うーん、きっと大丈夫だって」
PM10:30:20 青年が決定的一言を放つ。
「そうだ!明日の朝、小郡駅まで車で送ってってやろうか?」
(↑既に泊まる気でいるらしい)
PM10:30:22 任務終了。「カレーの王○様」の正体見たり。
深夜1:00。部屋の隅の暗がりで独り膝を抱え、放心。私が宇宙に唯一の「カレーの王○様」と信じた人の真の姿。それは「カレーの魔王様」と呼ぶのが相応しい悪の権化であった。考えてみれば、彼が軽トラで走り去る時わざとそっけなく別れたのも後から電話攻撃を仕掛ける為の作戦だったのだ。「見つめるCAT'S
EYE☆ミステリアスガール作戦」と全く同じ罠に逆にハメられたと気付いた私は、それまで震える手で受話器を握りしめながら正座していたはずの足元を胡座に組み変え、即座に戦闘態勢に構えるが、相手は魔性のハンター。かなうはずがない。
私が攻撃を仕掛ける前に、素早く青年が一言。
「ホント、もう一回顔見たいだけだから。」
耳元に踊るその囁きに、再び胡座が正座に戻りそうになる私。駄目だ・・・。敢えて青年の罠にかかるふりをして逆に貶めてやるつもりだったが・・・相手は一枚も二枚も上手だ。恐らく奴を部屋に入れたが最後、私は魔王の受精卵を土産に故郷へ帰ることとなるであろう。お手上げ。完全ギブ。とりあえず何とか和やかな空気を崩さずに誘いを断る私。そして両手で静かに受話器を置き・・・襲い来る虚無感と恥辱感に独り呻き続けて、時は深夜1:00。
世紀末、信じられるものをまた一つ失いました。メリークリスマス!!!
09.16.2000〜12.25.2000
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